人の一生は重き荷を負うて 遠き道を行くが如し 急ぐべからず 不自由を 常と思えば 不足なし 心に望みおこらば 困窮し足る時を思い出すべし 堪忍は無事長久の基 怒りを敵と思え 勝つことばかり知りて 負くるを知らざれば 害その身に至る 己を責めて 人を責むるな 及ばざるは 過ぎたるに 勝れり
人質は長くとっておくと、親子であっても親しみが薄れて効果がなくなる。恩愛に溺れて人質を捨てかねるものである。【覚書き|自分の幼少時代の人質体験から出た言葉。この教訓にしたがって、大名を従えるのに人質を取っただけでなく、家族愛が薄れないように参勤交代で数年に一度一緒に暮らさせるという仕組みを作った。】
放っておけ。それより書いてある内容が見たい。予のためになるものもあるだろう。【覚書き|天下統一をなし遂げた後、街中に体制批判をするビラがまかれたときの発言。他人の意見をよく聞いて自分の弱点を補った家康の人となりをよくあらわすエピソード】
真面目で、主君思いで、協調性もあり、勤勉な上に仕事もできる。そんな心と能力を持った人間はトップクラスの良臣だ。しかし、心ばえはそこまで良くなくても、何か優れた能力を持った者ならば採用すべきだ。
明日はきっと一戦あるなというようなときは、首をよく洗っておけ。武士たるもの、生きているときは鬼神のように戦い、死しては誉を永遠に残せるよう心掛けよ。
私はケチだから麦飯を食べているわけではない。いま天下は乱れに乱れ、領民も安らかな日は一日もない。そんななか私一人が暖衣飽食などできるものか。私が麦飯を食っているのも、少しでも節約して軍資金に回すためなのだ。
身分が低くお金もあまりない武士が具足(甲冑一式)をあつらえるときは、胴や籠手のほかは粗末なものでいい。だが、兜には念を入れ、良い物を付ける心得が必要だ。なぜなら討死にを遂げたとき、兜は首と一緒に敵の手に渡るからだ。【覚書き|死してもなお誇りを失わないような心意気を持てという意味合いが含まれた言葉】
はじめから主君に楯突こうと思っている者はいない。思い上がりと、恨みと、それから生じる欲心が謀反を起こさせるのだ。恨みのある心には悪事が寄り集まり、やがて主君の恩に背き不義を働き、父祖が積み上げた業績も棒に振って領地まで失ってしまう。これは足利将軍家の人々にもよくあったことだ。覚えておけ。
一手の大将たる者が、味方の諸人の「ぼんのくぼ(首の後ろのくぼみ)」を見て、敵などに勝てるものではない。 【覚書き:大将は味方の後ろに隠れず前に出て戦えという意味】
諸人の頭(かしら)などをするいまどきの者で、軍略を立てて床几(しょうぎ:折り畳み式簡易腰かけ)に腰をかけ、采配を持つ手さえ汚さずに、口先だけで戦に勝てるものと心得ているのは、とんだ考え違いだ。