当社では、コンセントの差込口やスイッチボックス、電線を通すパイプなど、電気設備に関するさまざまな部品・器具を製造している。大部分の製品は法律で規格が定められているため、寸法や材質はどの会社がつくっても同じ。要するに、なかなか差別化しにくいものを扱っているといえるだろう。しかし私どもは、商品を開発する際、他社がまだやっておらず、他社の特許も侵害しない工夫を必ず込めるようにしている。当然、新しい工夫を思いつかなかったら、商品として発売することはない。つまり、差別化しにくい分野でありながら、何らかの差別化が実現できた新製品だけを世に送り出しているのである。
かけるべき良いコストがある。売れるものほどコストをかけるべきだ。
経営者が知恵をしぼって従業員が働きやすい環境をつくり、従業員が意に感じて一生懸命に働くという、ごく当たり前の経営のあり方が、残業問題のみならず、全国の7割にものぼる赤字企業の、黒字化への何よりの処方菱になるだろう。うちはべつにユニーク経営をしている会社ではなく、普通の会社なんだよ。
どこの会社でも「報・連・相」、つまり報告、連絡、相談をするよう指導されている。私の会社ではこれを禁止した。なぜなら、儲かっていない会社が必ずやっていることは、ウチではやめなければいけないからだ。もちろん、役所や大企業なら、組織を束ねるために「報・連・相」を行わなければならないだろう。しかし我々のような中小企業でそんなことをする必要はない。むしろ時間や労力や経費のムダになる。いちいち上司や社長に報告などしなくても、現場を一番知っている社員に判断を任せればいい。そのおかげで、ウチでは社員が自主的に考えて動くようになった。
未来工業は休みが多い。ゴールデンウイークは例年10日程度まとめて連休にする。飛び石連休で休みの合間に出勤したら、仕事の能率はかえって下がってしまうからだ。同じ理由で、木曜日が祝日の場合は木曜日から日曜日まで、火曜日が祝日の場合は土曜日から火曜日まで、いずれも四連休にしている。合間に一日だけ出社しても、やはり仕事の能率は上がらない。能率の低い仕事しかしないのに、電気代やお茶代を使ったら、そっちのほうがもったいない。
役員の乗用車ももってのほか。ウチは天皇陛下がこられても、ライトバンで迎えにいくよ。乗用車を買う金があれば、そのぶんを従業員に還元したほうがいい。基本的にランニングコストは全部原価にボディブローで跳ね返ってくるから、意外とバカにならない。
私には、社員のアルバイトを禁止する理由がまったく分からない。おそらく多くの中小企業が、大企業の就業規則をマネているのだろう。しかし、我々のような規模の会社が社員のアルバイトを禁止するのは、絶対に間違っていると思う。以前、当社の社員がよくアルバイトをしている温泉宿の主人が訪ねてきた。そのとき、「お宅の社員は本当によく働いてくれて、年末年始は非常に助かっている。ものは相談だが、できたらもっと休みを長くしてくれないか」と、冗談半分に話されたことがある。未来工業は休みが多い。いま以上に休みを長くすると、お客様をさらに怒らせることになるから、さすがにそれはできないけれど、休みを多く与え、アルバイトを自由にしたことで、社員たちがみな喜んでいるのは間違いない。
会社というのはお金を儲けるために存在する。儲けられないのであれば、存在する価値はないと思う。それならば、「未来工業では儲からない会社と反対のことをやってやろう」という発想のもとで、これまでいろいろなことに取り組んできた。その結果、後発でローテクの岐阜県の小さな電設資材メーカーでありながら、不思議なことに何十年も倒産せずにすんでいるんだ。
未来工業ではホウレンソウを禁じている。現場のことは現場の社員が一番知っており、上司にいちいち相談する必要はない。その代わりに「常に考える」というスローガンを社内のあちらこちらに貼って、社員に考える癖をつけさせ、自分で動ける社員を育てている。手前味噌だが、未来工業ではホウレンソウなどせずとも利益を出し、法人税を納めている。
以前、茨城県に新工場を立ち上げる際、5人の部長がそれぞれ自分の部下を工場長に推薦してきたことがあった。皆、自分の部下は優れていて、相手の部下は「協調性がない」「上役の言うことを聞かない」などと批判して、なかなか議論がまとまらなかった。そこで私は推薦された部下5人に円陣を組ませて、その中心で鉛筆を倒すことにした。倒れた方向の人を工場長にするという寸法だ。それぞれ一長一短あるのだったら、誰が工場長になっても同じと思ったんだ。人選を「重力」に任せたら、鉛筆は5人の中で一番経験の浅い若い奴を指し示した。茨城工場の従業員は数人からスタートして、その後、100人ほどの規模に拡大したけれども、その若い社員は立派に工場長の職務を果たしてくれた。
世の経営者に対して、ひとつ意見しておきたいことがある。一般的に、会社で一番給料が安いのは、入社したての女性社員だろう。その女性社員でも、自動車は自分の給料で購入している。そんなのは当たり前のことだ。「ウチは給料が安いから、社員には自動車を一台ずつ買ってやろう」などと考える社長は一人もいない。ところが、会社で一番高い給料をもらっている社長は、自分の金で自動車を買わない。必ずといっていいほど会社の金を使い、女性社員よりもはるかに高級な自動車を購入する。そして会社の金でガソリンを入れ、会社の金で車検を受けて、その車をプライベートの遊びにも使っている。そんな社長の姿を見た社員が、果たして会社のために頑張って働いてくれるだろうか。私は絶対に一生懸命働いてくれなくなると思う。普通の人間ならバカバカしくなって当然だろう。たかだか4000万円の所得を上げられない、つまり儲かっていない中小企業の社長が、会社の金で高級車を買うのは、すぐにやめるべきだと思う。そうではなく、社長も自分の給料の中から、身の丈に合った自家用車を購入すれば、それだけで社員を感動させることにつながるはずだ。
私はかつて、「残業をすると解雇するぞ」と話したことがある。そういうと、幹部社員は、「そこまでやったらかわいそうだ」と反論してきた。そこで私は、「残業をしたいのは君たちの勝手だが、残業をするなら、そのときかかった電気代を、残業した人間が負担してくれ」といった。するとその後はだれも残業しなくなった。
いまはどこの会社の経営者も、従業員の残業を減らすことに躍起になっているけど、残業を減らすなんて簡単なこと。8時間働いたら帰ったらええだけでしょ。従業員にそれ以上の仕事をやらせなければいい。それじゃ、ノルマを達成できないって?じゃあ、残業すればノルマが達成できるのか?そもそも会社経営というのは、従業員が8時間働けば黒字が出るように計画を組んでいるはずでしょ。残業をしないと会社が傾くと考えるのは、経営そのものがおかしいのではないか。
給料以外にも、社員に臨時収入を与える独自の仕組みがいろいろある。当社では、作業着を貸与しておらず、仕事中に作業着を着るか着ないかは社員の自由にした。そもそも社員全員がおそろいの作業着を着る意味が、私には分からない。きちんと仕事ができれば、服装などどうでもいいと思っている。もちろん、なかには作業着を着たいという社員もいるから、作業着を買えるだけの現金を全員に支給している。作業着を着るかどうかは自由なのだから、何に使おうと社員の勝手。ポイントは、銀行振込ではなく現金を直接手渡すということだ。妻帯者のほとんどは奥さんに財布を握られているから、小遣いが乏しい。作業着代は個人的な小遣いに回しても構わないから、社員は喜ぶ。喜べば、またさらに頑張って働いてくれる。
いつも私は、「残業するくらいなら、お客によそで買ってくださいとお断りしなさい」っていっている。お客が逃げてしまうなことはないよ。消費者は短期的にはチラシでみて安い店の卵を買うことはあるにしても、中長期的には、気に入った店に必ず戻ってくるもの。その理由は日本人だから。荒唐無稽な話じゃない。本当だよ。だいいち、残業地獄でくたびれた顔をした社員がいる会社から、永続的にモノを買いたいと思うだろうか。規則正しい生活を送っていつも元気がよい社員が多い会社とつきあったほうが、その会社にとって長期的なメリットになるはずでしょ。
基本的には、電気設備の工事に携わる建設会社の職人に喜ばれるような工夫を心がけている。たとえば、「従来取り付けに10分かかっていたものを、1分で取り付けられるよう改良する」「従来両手で組み立てなければいけなかったものを、片手で簡単に組み立てられるようにする」「従来品よりも格段に使いやすくする」「きれいに作業できるようにする」といった観点で、規格にのっとった商品でありながら、まったく新しい価値を生み出していく。
そもそも商売とはお客様を感動させることで成り立つ。お客様を感動させることができれば、品物を買ってもらえる。品物を買ってもらえば、その会社は必ず発展していく。どんな会社でも、お客様第一主義、お客様のニーズに応える、顧客満足など、いろいろな言葉で表現しているが、要は「感動」という一言で言い表わせるのではないだろうか。では、お客様を感動させるのは誰か。これは社員にほかならない。ならば、経営者たるもの、お客様よりも先に社員のほうを感動させなければいけないはずだ。まず社員が自分の会社に感動していなければ、お客様を感動させるような働きができるわけがない。
「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」は禁止。極力、現場で判断してもらったほうが効率的だし、たいてい、どうでもいいような相談が多い。先日、ある部長が私のところに相談にきたから、「お前、今後、相談にきたらクビにするぞ」って脅かしてやった。いまの私の肩書きは相談役だけど、日本の会社で相談したら怒る相談役は私だけやろうね(笑)。
成果主義やノルマを禁止した。そんな重荷を社員に課すと、無理をしてしまい、かえって契約内容の質が下がってしまう。ノルマを課さず、人の管理もしていないが、そのほうが自由なので社員は喜ぶ。喜んでやる気が出るから、自分で目標をつくって積極的に仕事をしている。