学校を卒業して商売人になろうとした卒業間際に、内池廉吉博士がこう言われた。「これから商人というものはなくなる」と。私はこれから商人になろうとしているのに、これには驚かされた。また、「ただし、ひとつだけ残るだろう。それは生産が非常に複雑になり、消費者も無論複雑になる。この複雑な生産者と消費者の間に介在して、双方の利益を図る配給者としての商人がひとつ残る。これは学理である」と。
商売気を離れて油の用意をした。私のお客だけは油不足で仕事を休むようなことはなかった。他の事業会社では油が切れて事業を休んだところがたくさん出た。私はただお客のために油を用意しただけだ。しかし戦争が済んだら、油は出光に任せておけということになった。金は儲けなかったが、得意先を儲けたのだ。
禅的な言葉でいえば自分を殺す、身を犠牲にするというか克己の精神、これが私の信念である。したがって会社の経営も利益本位じゃなく商売本位、事業本位という考え方になった。